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静岡地方裁判所 昭和34年(行)6号 判決

原告 茶業資材販売株式会社

被告 静岡地方法務局長

主文

静岡地方裁判所が、原告の訴外三河盛および三河多賀次に対する不動産仮処分申請事件において、昭和三三年一〇月一五日別紙目録記載の物件につき静岡地方法務局金谷出張所になした右仮処分記入の登記嘱託を同所登記官吏が却下したのに対し、原告のなした異議申立につき、被告が昭和三四年三月三日なした右申立を棄却する旨の決定は、これを取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人等は主文同旨の判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求の原因を次のように述べた。

一、別紙目録記載の物件は訴外三河盛の所有であるが、訴外三河多賀次は右物件につき、盛が多賀次に対して負担している昭和三一年一二月二六日附消費貸借による金八〇万円の債務を弁済しないときはその所有権を移転する旨の停止条件附代物弁済契約を原因とする所有権移転請求権保全の仮登記(静岡地方法務局金谷出張所昭和三二年一二月二七日受付第二四六〇号、以下本件仮登記という。)をなした。

二、原告は、右代物弁済契約は通謀虚偽表示か、然らざれば詐害行為であるとして盛に対する損害賠償債権の保全のため右両名を相手方とし静岡地方裁判所に仮処分の申請(同庁昭和三三年(ヨ)二二九号)をしたところ、同裁判所はこれを容れ、昭和三三年一〇月一一日右物件上の本件仮登記につき、盛は多賀次に対する「所有権移転本登記手続その他一切の処分」を、多賀次は右仮登記につき「所有権移転本登記手続、又は仮登記移転附記登記手続その他一切の処分」をそれぞれしてはならない旨の仮処分命令を発し、静岡地方法務局金谷出張所に対し、右仮処分の登記を嘱託した。

三、ところが同所登記官吏村松太郎は同月一五日これを受付けた上、「登記は権利変動そのものではなく、その対抗要件に過ぎないから、本件仮処分の如く登記手続のみを禁止する仮処分は民事訴訟法第七五八条第三項にいう処分の制限に該当しないから嘱託すべき規定がないのみならず、登記手続を禁止することは不動産登記法第一条にいう処分の制限ではなく、登記を禁止する仮処分の記入登記は権利変動の対抗要件として何らの効果も実益もないから許されない(昭和三〇年八月二五日付民事甲第一、七二一号民事局長通達参照)」との理由でこれを却下した。そこで原告はこれを不服として同年一一月五日被告に対し不動産登記法第一五〇条による異議の申立をなし、右却下処分の取消を求めたが、被告は昭和三四年三月三日これを棄却し、右棄却決定の通知は同月一三日原告に到達した。しかしながら本件仮処分の登記嘱託を却下した登記官吏の処分は以下に述べるような理由で不当であり、これを維持した被告の右棄却決定も亦不当であるから、右決定の取消を求める。すなわち

四、被告は登記手続自体を禁ずることは民事訴訟法第七五八条第三項にいう「処分の制限」に該当しないと主張するが、裁判所は仮処分の目的を達するため必要な処分を自由な裁量によつて定め得る(同条第一項)のであるから、同条第三項にいう「処分」もこれを承けて、およそ不動産上の権利関係に影響を及ぼすべき一切の処分を包含するものと解すべきである。したがつて裁判所は必要と認める限り登記手続を禁止する仮処分命令を発することも可能であつて、このような仮処労の記入の登記が嘱託せられた場合には、同条第三項は不動産登記法第一条の特則をなすものとして、登記官吏はこれを受理すべきである。

五、仮りにそうでないとしても一般に裁判所が登記手続を禁止する仮処分命令を発するのは、実体上の処分行為を許容しながら登記のみを禁ずるという趣旨ではなく、前提となる権利変動そのものも禁止する趣旨と解すべきであるから右仮処分は不動産登記法第一条にいう処分を制限するものにほかならない。

又右主張が理由ないとしても、物権変動はその対抗要件を具備してこそ、はじめて完全な効力を生ずるのであつて、対抗要件を欠く物権変動の効力は極めて脆弱であるから、一般に不動産を処分する際には対抗要件たる登記もなされるのが常であつて、登記が禁止されれば、不動産の処分は事実上著しく阻害される。この意味で登記手続禁止の仮処分は実質上不動産の処分を制限するものというべきである。したがつて登記官吏は本件仮処分の登記嘱託を受理して登記記入すべきである。

六、本件却下処分は、登記のみを禁ずる仮処分がなされたとしても何等の効果も実益もないことをその一理由としているが、登記がなされると、実体的な権利変動が事前にあればこれに対抗力を生ずるし、権利変動がない場合も、あるかの如き外観を具えるに至り、その後の登記が可能となる結果、実体関係を伴わない多数の登記を生じて権利関係の複雑化を来し、仮処分権利者の権利行使は著しく因難となるのみならず、登記を信頼して取引した第三者に不測の損害を与えるおそれがある。殊に本件の如く、仮登記の原因たる行為が通謀虚偽表示又は詐害行為である場合、当該不動産が善意の第三者に転売されるのを防止するため債権者の採り得る手段としては、本件の如き仮処分を得てこれを登記する以外に有効適切な法律上の手段がないのである。何となれば債権者たる原告として債務者たる三河盛の所有不動産を執行財産として保全するには仮登記がなされている現在においては(イ)当該不動産に対し、仮差押、或は処分禁止の仮処分を得ても、その後に仮登記に基く本登記がなされれば、仮登記に順位保全の効力がある結果、仮差押仮処分は本登記に対抗し得ず、(ロ)仮登記に基く本登記がなされるのを待つて、新所有者(多賀次)を相手方として処分禁止の仮処分を申請することは理論上は可能であるが、現実には、本登記の申請と同時に、更に第三者に対する所有権移転登記の申請がなされるのが通例であるため、このような仮処分は不可能であり、(ハ)通謀虚偽表示ないし詐害行為を原因として仮登記抹消請求訴訟を起しても、その無効又は取消は善意の第三者に対抗し得ないため予告登記はなされない(不動産登記法第三条但書)から善意の転得者が生ずるのを防止することも出来ないのである。

七、本件却下処分はその理由として、昭和三〇年八月二五日附法務省民事局長通達(民事甲第一七二一号)を引用しているが、大正四年二月二〇日附法務局長通達(民事第二二六号)は登記手続を禁止する仮処分の登記嘱託は受理すべきであるとしており、被告においても本件と同様の事案につき最近まで受理していたのであるから多年行われて来た取扱を行政官吏の一片の通達で変更するのは法定安定を乱すものであつて、不当である。

八、仮に、登記手続のみを禁止する仮処分は、民事訴訟法第七五八条にいう「処分の制限」でないとしても、本件仮処分命令は登記手続のほかその他一切の処分を禁止しているものであつて「その他一切の処分」とは実体的権利変動の意思表示を指称するものと解すべきである。登記手続自体に関しては、仮登記に基く本登記及び仮登記移転附記登記以外に禁止すべき如何なる登記手続も考えられないからである。したがつてすくなくとも右「一切の処分禁止」の部分は登記されなければならない。

なお被告の答弁第四に対しては次のとおり述べた。

九、被告は、本件登記嘱託は盛に対しては本登記禁止、多賀次に対しては仮登記移転附記登記禁止の記入を求めるものであるから不動産登記法第四六条に違反するというが、本件仮処分は盛に対しては多賀次への所有権移転本登記その他一切の処分禁止を、多賀次に対しては盛からの所有権移転本登記及び第三者への仮登記の移転附記登記その他一切の処分禁止を命ずるもので、盛に対する仮処分を実効あらしめるため、多賀次に対しても同一内容の仮処分(仮登記移転附記登記は「処分」の一例示であり、全体の趣旨は要するに一切の処分禁止にほかならない)をしたに過ぎず、嘱託にかゝる登記の目的原因は実質上同一であつてこの点に関する被告の主張も理由がない。

被告指定代理人等は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告め負担とする。」との判決を求め、答弁として次のとおり述べた。

一、請求原因事実中一、二の原告が仮処分申請をなしたこと及び理由は不知、同七の被告が本件と同様の事案につき最近まで登記嘱託を受理していたことは否認するが、その余の事実はすべて認める。

本件登記嘱託を却下した官吏の処分およびこれを是認した被告の異議申立棄却決定はいずれも正当である。すなわち、

二、裁判所が仮処分を以て、不動産を譲渡し又は抵当となすことを禁ずる等その処分を制限した時は裁判所は登記簿にその禁止を記入せしめ(民事訴訟法第七五八条第三項)、第三者に該不動産につき仮処分による処分の制限がなされていることを公示するのであるが、右登記は不動産登記法の定める手続に従い、同法第一条所定の権利及びその処分についてのみなされるべきものであつて、右以外の事項につき仮処分がなされ、その登記の嘱託があつても、これを登記することはできない。本件仮処分は、所有権移転請求権保全仮登記の登記義務者三河盛に対しては、該仮登記についての所有権移転本登記手続その他一切の処分を禁止し、登記権利者三河多賀次に対しては、右仮登記の移転附記登記手続その他一切の処分を禁止する趣旨と解されるのであるが、元来登記は実体上有効に成立した権利変動の対抗要件に過ぎず、登記をすること自体は権利変動そのものではないのであるから、登記手続のみを禁止することは、前掲法条にいう「処分の制限」に該当しない。又、右にいう「処分の制限」は、これを登記することにより爾後これに反する権利変動の意思表示がなされ、それが登記されても仮処分権利者に対抗し得ないという効果を生ずるのみで、「処分の制限」に反する事項についても、登記法上の要件を具備した申請があれば登記はされるのである。而して、仮登記に基く本登記手続のように、本登記権利者に本登記申請をなすための要件が具備されていないものにつき、後日要件が具備された場合に本登記をなすことを認め、それまでの間仮登記権利者として、その権利の順位を保全するに過ぎないものは、これが本登記をなすにしても、単に登記の上の問題にとゞまり、権利変動による対抗力を認めるものではないのであつて、仮登記権利者に対し、本登記をなすことを禁ずることは、右にいう「処分の制限」に該当するものということはできない。したがつて仮登記に基く本登記をなすことを禁じた本件仮処分の登記簿記入を求める本件登記嘱託は、受理すべきものではない。

三、次に、本件登記嘱託は、右本登記手続の禁止と共に、「その他一切の処分をしてはならない旨の仮処分」及び「仮登記移転附記登記その他一切の処分をしてはならない旨の仮処分」を、登記の目的として表示しているが、こゝに謂う「その他一切の処分」とは、何れも、その具体化された禁止即ち本登記手続及び仮登記移転附記登記の禁止に附随する登記法上の行為を指称するものと解すべきはその文言から見て当然であり、右「その他一切の処分」を以て実体上の権利関係の処分を指すものとは到底解せられない。したがつて、「その他一切の処分をしてはならない。」との表示があるからといつてこれを実体上の権利変動の禁止と見て登記することも出来ない。

四、更に本件登記嘱託は、登記の目的が同一でないもの、即ち、一方は三河盛に対する仮登記に基く本登記手続の禁止を、他方は三河多賀次に対する仮登記移転附記登記の禁止の各登記を併せ来めるものであるが、同一の嘱託書を以て登記嘱託をなし得るのは、その登記原因及び登記の目的が同一な場合に限る(不動産登記法第四六条)のであつて、右のように異る登記の目的を一通の嘱託書に表示した登記嘱託は不適法であつて受理すべきでない。

五  仮に本件登記嘱託にかゝる登記の目的のうちに、登記し得る事項が含まれているとしても、右登記可能なもののみを登記し、他のものを却下する所謂一部却下処分は不動産登記法上これをすることはできないのである。登記官吏としては、登記申請を受理するか或は知下するかの決定は、常に当該申請全部を不可分の一体としてなすべきであつて、訴訟における請求の一部認容、一部棄却のような処分は許されない。登記手続は能率的に処理されることを必要とし、又、事後に登記の効力や手続の可否が問題にされる場合を考えれば、受理又は却下の処分は簡明単純なものであることが制度上妥当だからである。したがつて申請そのまゝの登記は許されないが申請の内容を量的又は質的に減縮すれば受理し得るような場合にも、減縮した内容に応ずる登記をなすべきではなく、直ちに補正し得るものについては補正を勧告し、応じなければその申請を却下すべきであつて、このことは不動産登記法が申請の方式を法定(同法第三五条、第三六条、第四六条等)し、その受理の手続についても、申請そのものに基き登記し得ることを要求し、又申請につき順位を確保すること等を定め(同法第四七条、第五〇条)、もつて登記手続の画一的能率的処理をはかり、第三者に不測の損害を与えぬよう配慮していることからしても明らかである。

以上述べた何れの理由によつても、本件登記嘱託は受理すべきでないからこれを却下した登記官吏の処分、及びこれに対する原告の異議申立を棄却した被告静岡地方法務局長の処分は正当であつて、本訴請求は理由がない。

立証〈省略〉

理由

一、原告が訴外三河盛、同多賀次を相手方としてその主張のような理由で静岡地方裁判所に仮処分申請をなしたことは成立につき争のない甲第一号証によつて明らかであり、同裁判所が仮処分命令を発し、静岡地方法務局金谷出張所に右仮処分の登記嘱託をしたところ同所登記官吏が原告主張のような理由でこれを却下したことおよび原告が右却下を不当として異議申立をしたのに対し被告がこれを棄却する決定をしたことは当事者間に争のないところである。

二、おもうに、民事訴訟法第七五八条第一項によれば裁判所はその申請の目的を達するに必要あると認める以上いかなる処分をも定め得るものであつて同条第二項は単に処分の方法を例示したに止まりこれを限定する趣旨でないと解せられるから本件仮処分が、右訴外人等に対し、任意の履行にまつべき不作為義務を課するものとして適法有効であることは多言を要しないと考えるので以下右仮処分が登記され得るものか否かについて考察することにする。

三、本件仮処分が第一義的には、盛及び多賀次に対し所有権移転請求権保全の仮登記に基く所有権移転本登記手続をなすことを禁じ、かつ多賀次に対しては更に、右仮登記の移転附記登記手続をなすことを禁じたものであることは、その文言自体から明白である。

そこで先づ右本登記手続を禁止する仮処分の能否について考えて見る。登記は不動産上の権利変動を第三者に対抗するための要件であつて、登記申請は不動産の処分行為そのものではないと被告は主張する。しかしながら、果して登記は単なる対抗要件の表示に過ぎず、完全な実体上の権利変動がその前に生じているということができるだろうか。不動産上の権利変動はこれを登記してはじめて第三者に対抗し得る排他的な効力を生ずるのであつて、未だ登記を経由しない物権変動は、第三者に対抗する排他的な効力をもたないから右第三者からみると権利変動の存在しない場合と何ら逕庭がないのであつて登記申請行為は不動産処分の効力を完成させる効果を有し、実質上処分行為の一部とみなすべきものである。してみるとこのような性質効果を有する登記申請行為を禁ずることは、民事訴訟法第七五八条第三項に所謂「処分の制限」に該当するものと解するのが相当である。元来不動産につき債務者の処分行為を禁止する通常の仮処分命令の場合においても、そこに所謂処分禁止とは、実体上の処分行為のみならず、これに附随する登記手続をも禁止する趣旨を当然包含しているものと解すべきであつて、ただこの場合実体上の処分が禁止されれば、その登記もできないのは当然のことであるから特にこの旨を主文に掲記する必要がないだけである。ところが、本件の場合のように、既に実体上の処分行為はなされており、これにつき仮登記がなされ未だ本登記を経由しない場合に、仮登記義務者(登記面上の不動産所有者)の債務者が、右仮登記の原因たる処分行為の無効乃至取消を主張し、目的不動産に対して執行を保全しようとするときには、仮処分命令による処分禁止の効力が将来における債務者の行為を禁止するに止まり既往の処分に及ばないのに、仮登記に順位保全の効力があるため、仮処分後になされた本登記が仮処分に優先する結果となり、単なる処分禁止の仮処分では目的を達し得ないことになるから、不動産上の権利変動が排他的な効力を生ずるのを阻止するためには本件仮処分の如く本登記手続を既になされた実体上の処分行為から切離して捉え、これを禁止する旨を明記する必要があるのである。通常の処分禁止の仮処分といえども、右に見たような仮処分前になされた未登記の処分行為との関係では、結果において登記のみを禁じたと同様な効果を生ずるわけであつて、このことを考え併せれば、本件仮処分が登記手続を禁止するという形式をとつているからといつて、その登記嘱託を拒むべき理由はないと言わねばならない。又破産法第七四条が対抗要件の否認の制度を規定しているのも、対抗要件具備のための行為を実体上の権利変動から切離してその効力を論ずる余地のあることを示しているものであつて、登記手続禁止の仮処分が登記され得るか否かを判定する上において、参考とすべき事柄であると考える。

四、被告は、登記禁止の仮処分が登記されても、これに反する登記がなされたことを阻止できないから右のような仮処分は実益がなく、許さるべきでないと主張する如くであるが、実体上の処分禁止の仮処分に反する登記も適法な申請があれば受理すべきものであること、従つて又登記禁止の仮処分に反する登記もなされ得ることは被告の言う通りである。しかしそれは仮処分が効力を失つた場合には、これに反する処分も完全に有効となることを考えれば当然であつて、その故に登記禁止の仮処分が実益を有しないものであるということはできない。仮処分が失効しない限り、これに違反してその後になされた登記は仮処分権利者に対抗し得ないのであるから、登記禁止の仮処分の実益は、充分に存するものと言うことができる。

五、次に、本件仮処分中、仮登記の移転附記登記を禁止する部分も多賀次の盛に対して有する所有権移転請求権の譲渡を阻止するため登記手続の面からその移転を禁止したものと解されるのであつて前述のように登記の申請が実質上処分行為の一部と見られる以上民事訴訟法第七五八条第三項にいう処分の制限としてこれ亦登記できるものといわねばならない。

六、なお附言すれば登記手続を禁止する仮処分を登記簿に記入することは、登記技術の点から見ても不可能とは考えられない。現に、原告引用の大正四年法務局長通達は、相続登記をなすべからずとの仮処分の登記嘱託は受理すべきであると述べており、又本件の如き仮登記に基く本登記の禁止及び仮登記移転の附記登記の禁止は何れも仮登記に対する附記登記の形式で登記し得ると解することができるからである。

以上要するに、本件仮処分中、登記手続を禁止する部分は何れもその登記が可能であるから、右仮処分中「その他一切の処分をしてはならない」との文言が実体上の処分行為を禁止する趣旨であるとしても、また登記上のそれを禁止する趣旨であるとしても登記官吏としては本件仮処分の登記嘱託を拒否すべきではなくこれを受理すべきものである。

七、更に被告は、本件登記嘱託が不動産登記法第四六条に違反すると主張するが、同条所定の要件中、本件仮処分の目的物件たる土地及び建物が何れも静岡地方法務局金谷出張所の管轄内に存在するものであることは、その表示自体から明らかであるし、登記原因たる仮処分及び登記の目的たる右仮処分の内容は両不動産につき共通であるから、本件登記嘱託が一通の書面によつてなされたことは、何等同条に違反するものではなく、被告の右主張も理由がない。

八、以上説示したところによれば、本件仮処分に基く登記嘱託はこれを受理すべきものであることが明らかであり、これを却下した登記官吏の処分、及びこれを維持し原告の異議申立を棄却した被告の決定は何れも不当であるから、右決定の取消を求める原告の本訴請求は理由がある。よつて、当事者のその余の主張に対する判断はこれを省略し、原告の請求を正当として認容し、仮執行の宣言は事案の性質上これを附しないこととし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 大島斐雄 田嶋重徳 藤井登葵夫)

目録〈省略〉

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